グレーの秘密
四日ほどして、既に指定の白シャツと黒いパンツを穿いた、履歴書の女がやって来た。

同じ女の子のほうがいいだろうという配慮で、私が彼女の教育係に任命された。同じシフトの橋本が、悔しそうにバックルームを後にした。

「安東です。宜しくお願いします」
「私は山中、だけどマリエでいいよ。確か同い年でしょ。」

同じ指定服を着ている耀子と並ぶと、彼女を美しいと思わない逃げ道は無かった。小さな顔、細い首筋、長い手足。全ての造形に手間を掛けた、神様の最高傑作なのだ。

「ありがとう。じゃあ、私は耀子でも何でも呼んじゃってよ。」
「何でも。じゃあ、ヨウちゃん」
「そうそう、だいたいあだ名はヨウちゃんなんだ、私。ノリコがのんちゃんみたいな感じ。」
「あはは、あるある」

耀子は才色兼備を地で行っていたが、決して高慢ではなかった。どの世界、階級、年齢とも、目線を合わせて接することが出来る子だった。
新人研修とは言え、この仕事で教えることなど殆ど無い。とりわけ耀子は吸収が早かったし、その時間は私と彼女の親睦を深める為に充てられた。

「P大。凄いじゃん!」
「いやはや、ガリ勉だったのですよ。」
「それでも、早々入れるもんじゃないよ」
「照れるなあ。エリカは?」
「私は、R女、受かったけど行かなかった、行けなかったが正しいのかな。家庭の事情ってやつ」
「そう・・・色々あったんだね」

咄嗟に嘘を吐いた。私はR女を受けてさえもいなかったし、家庭は裕福でこそないものの、大学に通えない程ではなかった。
耀子は私の話に哀れみも同情もしなかった。寧ろ深い溜息に、私への尊敬に似た色さえ見せた。彼女の眩しさに充てられて虚言を呈した私は、その純粋さにいっそう眩暈がした。

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