その猫、取り扱い注意
「待って」
「……」
「待てよ」
今までイツキくんを無視したことなんてなかった。
話を持ち掛けるのはいつもあたしで、イツキくんは冷たいそぶりを見せながらも聞いてくれた。
そんなの過去のこと。
あたしにはチアキくんがいるし、イツキくんにも彼女がいる。
だったら。
「聞こえない?」
「……」
「待てって言ってんの」
どうしてあたしは掴まれた腕を振り払えないんだろう。
「離してよ…」
「離さない」
ぎゅうっと掴まれたところに力がこもる。
触れられて嬉しいなんてどうかしてる。
これじゃあ、チアキくんに会っても罪悪感しか感じられない。
どんな顔して会えばいいのかな。
「ユミ」
「……」
「あのさ、頼むから」
「……」
「チアキと別れてよ」
彼の悲痛な声に頷きそうになった。
否 定 で き な い 気 持 ち
( 君を嫌いと言えない自分が憎い )