その猫、取り扱い注意
「ゆっ…」
名前を呼ぼうとした。
後ろから出てきた手によって口を塞がれる。
いい加減にしろよ。
じろりとナナを睨むと、ナナも負けじと睨み返してきた。
「何のつもり?こんなことしていいんだ?」
「俺はもうお前と…」
「別れてあげない」
今まであまり反抗してこなかったナナが初めて見せた表情。それは、怒っているような悲しんでいるような苦しげな顔。
俺は目を見開いて圧倒される。言いたいことがあるのに、喉につっかけて言えない。
「イツキって女の怖さを知らないよねー」
「は」
「ま、いいや。これから分かることだし。自分がしようとしたことに後悔してよ」
「……」
「絶対別れないから」
念を押すようにもう一度強く言って、こいつは立ち上がった。
俺はそれをぼんやり見る。
何をしても無駄。
頭の中にそんな文字が浮かび、ついでのように今日は何の日か思い出した。
あいつは覚えているだろうか。
つ ま り 、 今 日 は
( 俺達が付き合った記念日だ )