その猫、取り扱い注意
今、あたしは酷い顔をしているだろう。顔を上げたくなかった。
まさか"誰か"がチアキくんだと思わなかったから。
授業が始まってもあたしの頭の中は授業と関係ないことでいっぱい。
嫌いな数学の授業。
ちゃんと黒板に書いてある公式をノートに写さなきゃ。
そう思っても手は動かず、上の空で。
授業の途中でなっちゃんがあたしに「大丈夫?」と口パクしてくれたのにも苦笑いすることしか出来なかった。
結局、ノートは真っ白のままだった。
「ユミちゃん帰るよ」
「ちあっ…きくん」
あたしがぼーっとしてる間に放課後になっていたようだ。
いきなり声をかけられて少しだけ驚いた。
「……」
そんなあたしにチアキくんは「帰ろう?」といつも通りの口調で言った。