ヒールを履いた猫
「しょ、しょがないにゃ」

 ふん、と立ち上がりショウマの前で歩いて見せる。

 踵の高い靴をあまり履かないわたしは、不安定な足取り。

「ストップ、モモ様」

 その場で立ち止まる、わたしの踵に触れながら

「全体的に前へ寄ってしまわれますね。爪先に柔らかな詰め物を入れましょう」
とショウマ。

 ……あまり触れて欲しくないにゃ

 わたしだって年頃。

 いくらショウマがわたしの下僕だって……。

 ちくり

 と胸が痛む。

 触って欲しい

 でも

 触って欲しくない

 どちらかと言うと、触って欲しい気持ちの方が大きい。

 心地良くって、ずっと触っていて欲しい。

 喉がグルグル鳴らしたくなるのを我慢するのって辛い。

 ずうっと昔、わたし達猫族が人間に飼われていた時の記憶が、身体に埋め込まれているんだわ。

「調整しましょう。靴をお脱ぎ下さい」

 柔らかなスポンジを入れては出して切り。それを何度か繰り返し、履き心地の良いセミ・オーダーのハイヒールに早変わり。

「如何です?」

 わたしは、ショウマの前でくるりと回って見せる。

 チリンと鳴るベルの涼やかな音も変わること無く、わたしの足に馴染む。

「良いにゃ。流石ショウマね」

 ショウマは色んな事をそつなくこなせる。

 室内でしか履けない靴。

 だけど足が痛くならない方が良いに決まってる。

 歩く度にチリンと鳴るベルの音に、わたしは微笑みながらショウマを見ると、ショウマも嬉しそうに微笑んでいた。

 その笑顔がうっとりと蕩けそうなので、わたしの方が恥ずかしくなって、思わずプイッとそっぽを向いてしまう。
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