ヒールを履いた猫
「……ふん。まあ、わたしに仕える下僕なんだから、この位出来て当たり前だにゃ」

「はい、このショウマはモモ様だけの物です」

 にこりと、胸に手を当て更に微笑みを深くして、わたしを見つめるショウマ。

 ──そんなこと言わないで。

 真に受けちゃう。

 時々ショウマは、下僕以上の思いが籠っているんじゃないかと、こちらが錯覚してしまう言い方をする。

 ドギマギしているわたしを見て、からかってるんじゃないかな? とひねくれた考えで、わたしは高飛車な態度になってしまうの。


「モモ様……」

 微笑みを継続しながら、ショウマがポケットを探りつつ近付いてきた。

 ……えっ?何?

 ぎょっとして身構えているわたしの事なんか気にせずに、ショウマはどんどん近付く。

 わたしと数センチしか離れていないところまで来ると、ショウマはほんのりと頬を赤く染めた。



「これを……」

 ポケットから出したのは小さな四角い箱。

 わたしに見せるように蓋を開ける。

 ──そこには、薔薇を型どったクリスタルが付いているチョーカー。

「このチョーカーのリボン。ヒールの飾りのと同じにゃ」

「はい。モモ様と一緒に私も内職をした給金で買いました。名前も刺繍してもらったんですよ」

「……それで戻ってくるのが遅かったわけにゃ……」

「モモ様がお生まれになって初めて体験した労働に、私も何か記念にお贈りしたかったものですから……」


 嬉しくて

 胸のバクバクと一緒に涙腺が緩んできちゃう。

 鰹節、つまみぐいしなくて良かった。

 わたしのためにショウマは、やらなくて良いことまでやっていたのに。

 迷惑とも面倒臭いとも愚痴どころか顔にも出さずわたしに付き合ってくれた。

 それどころか

 わたしにプレゼントだなんて……。
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