一億よりも、一秒よりも。
刹那。
「なんで人間ってさ、女の方が派手なんだろうね」
　
仕事帰りに寄った百貨店で、彼女がぼそり、呟いた。ショーウィンドウに飾られた、デコラティブなワンピースを見ながら。
俺はただ曖昧に頷く。彼女はきっと答えを求めていないから。

そうして、俺たちは手を繋ぐわけでもなく腕を組むわけでもなく、化粧品の香りに包まれたフロアを抜けていく。
　

世の中の女性が、みんな彼女みたいだったらいいのに、といつも思う。

思うということは残念ながらそうではない女性が多いということで、見た目は好みだったのに口を開いたら喧しくてたまらない、ということも幾度か経験してきたということだ。

そういう恋は、残念ながら一瞬で終わりを迎える。
　

そしてその逆もありえる。恋には落ちないけれど、会話の呼吸が妙に会う人。そういう人と巡り合ってしまうと、恋人なんて必要なくなる。
ただ性欲の捌け口が欲しいならば、自淫行為に耽るか風俗にでも通えばいい。

いや、けして、隣を歩く彼女がそうだと言いたいわけではない。きっと、たぶん。
　
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