一億よりも、一秒よりも。
「あの女」どの人のことかと尋ねる俺に、三原先輩は煙草に火を点けて笑う。
「背が高くて彩度の低い」彼らしい表現に、思わず笑いが零れる。

背が高くて彩度の低い、それに当てはまるのは一人だけだった。
 

紫煙を燻らせて先輩はにいっと笑った。
きっと俺の答えは期待していなかっただろう。懇願なんてうわべだけ、彼なら上手いことすり抜けてお気に入りの女性を隣に引き連れてゆく。
 

その予想は的中して、俺が何をする必要もなく、三原先輩は背が低くて彩度の高い女性を連れてさっさと消えて行った。
それを背が高く彩度の低い彼女は唇をぎゅっと結んで見つめていた。
 
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