抹茶な風に誘われて。~番外編集~
 あたしの不機嫌な顔を何か勘違いしたのか、情けない表情を浮かべた彼は、おずおずと口を開いた。

「そ、そうですよね……すみま……」

「誰も謝れなんて言ってないっての!」

 イライラついでに声を荒げたせいか、バス待ちの列にいた人たちがぎょっとした顔で振り向く。

 それだけではないような注目を浴びている理由――それはそのまま、なぜあたしが今までこいつの告白を退け続けてきたか、につながっている。こんなにわかりきっていることが、こいつにはわかってないらしい。周囲の白い目にも気づくことなく、おどおどとあたしに歩み寄ってくる。

「えっと――なんで……あ、もしかして忘れ物……?」

 真面目な顔でそんなことを言ってのけるヤツだから、きっと説明してみせたとしても懸命に否定するのだろう。そんなことわかってる。もちろん、彼のそんな態度は、ごく一般的な見解からは外れきっていることも。

「あのさ――田舎に帰るなら帰るって、何で言ってくれないわけ」

 思いきり眉間に皺を寄せて訊ねたりして。あたしは何がしたいんだか――理性が働いてる普段なら、絶対に言わない言葉としない行動。そうだ――きっとあたしは、二日酔いで疲れてるんだ。
 だからこんなに、胸がぎゅっと締め付けられたりするだけ。

「え……? いやだって、急にお袋の具合が悪いって聞いたから――それで」

 そんなこと、別にお前に言うことじゃないだろう。そんな困惑した顔を見て、勢い込んでこんなとこまでやってきた自分がバカみたいに思えた。

 あんな男の口車に乗って、シャワーも浴びず、着替えもしないでそのままの姿でやってきて。こんなの――こいつだって望んでないんじゃないの?

「そう――そうよね」

 突然、冷めた声が出た。模範的な灰色と、ビビッドすぎるオレンジ。まるで違いすぎる色合いにも、目に見えない壁を感じた。
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