抹茶な風に誘われて。~番外編集~
Ep.3 抹茶なチョコの隠し味(かをる編)
ピンクや黄色でアイシングして、アラザンをのせて、チョコペンで可愛くデコレーション。ハートや星の形で作ったチョコクッキーはお友達に。
紅茶やコーヒーのお供にできて、忙しい二人のために少し日持ちのする甘いお菓子。お家でじっくり焼いたチョコブラウニーは葉子さんとおじさんに。
溶けずに手にも付かない、朝食やおやつにも食べられるメニュー。しっとりチョコチップマフィンは施設の皆さんと子供たちに。
お菓子作りの本をあれこれ並べて、ああでもないこうでもないとこうやって考えて、心を込めて作ったお菓子をラッピングして――受け取った人の笑顔を思い浮かべながら、手渡したり、送ったりする。
毎年の楽しみに加えて、もう一つ最後まで悩んだ贈り物が今年はある。そう、初めてできた恋人に贈る、バレンタインのチョコレート。
「はあ……何にしようかなあ」
思わずもれた呟きは、ホースから勢いよく流れ出る水の音に紛れたと思いきや、きっちり少し離れたところにいた葉子さんに届いたようだった。
「あら、かをるちゃんまだ決めてなかったの? 一条さんの分」
店の外に出した鉢植えたちをぼんやり眺めていた目線をあげると、自転車を停めて戻ってきた私の母親代わり――ここ、フラワー藤田の奥さんが意外そうに言った。そのまま丸いメガネの奥の瞳を細めて、にんまりと笑う。
「もう他の人の分は全部作ったんでしょう? あたしたちのも――しっかり味見させてもらったし」
「そうなんですけど……静さんは特別、っていうか」
考えていたことをそのまま答えたら、葉子さんはたちまち唇をとがらせて、頬を膨らませる。子供みたいな表情は微笑ましかったけれど、誤解されたことに気づいてあわてて手を振った。
「ちっ、違いますよ! あの、そういう意味じゃなくて――」
「そうよねえ。そりゃあ特別よねえ。いいのいいの、わかってるわよ。大好きな彼にあげるチョコってのは一番悩むわよねえ~」
いじけたように語尾を伸ばして続けた葉子さんは、私が本当に困ってることを知っていてやっているのだ。だから、余計にどうしたらいいかわからなくて、頬まで赤くなってしまう。
「そういう特別もないとはいいませんけど……静さんの場合、そうじゃなくて――」
「わかってる。甘い和菓子は好きでも、洋菓子は苦手なのよね。夏、彼のお誕生日の時にあげたケーキのこと、ちゃーんと覚えてるわよっ」
ぷっと吹き出して、私の肩を軽く叩きながら先回りして言ってくれる。葉子さんの優しさにほっとして、私は頷いた。
紅茶やコーヒーのお供にできて、忙しい二人のために少し日持ちのする甘いお菓子。お家でじっくり焼いたチョコブラウニーは葉子さんとおじさんに。
溶けずに手にも付かない、朝食やおやつにも食べられるメニュー。しっとりチョコチップマフィンは施設の皆さんと子供たちに。
お菓子作りの本をあれこれ並べて、ああでもないこうでもないとこうやって考えて、心を込めて作ったお菓子をラッピングして――受け取った人の笑顔を思い浮かべながら、手渡したり、送ったりする。
毎年の楽しみに加えて、もう一つ最後まで悩んだ贈り物が今年はある。そう、初めてできた恋人に贈る、バレンタインのチョコレート。
「はあ……何にしようかなあ」
思わずもれた呟きは、ホースから勢いよく流れ出る水の音に紛れたと思いきや、きっちり少し離れたところにいた葉子さんに届いたようだった。
「あら、かをるちゃんまだ決めてなかったの? 一条さんの分」
店の外に出した鉢植えたちをぼんやり眺めていた目線をあげると、自転車を停めて戻ってきた私の母親代わり――ここ、フラワー藤田の奥さんが意外そうに言った。そのまま丸いメガネの奥の瞳を細めて、にんまりと笑う。
「もう他の人の分は全部作ったんでしょう? あたしたちのも――しっかり味見させてもらったし」
「そうなんですけど……静さんは特別、っていうか」
考えていたことをそのまま答えたら、葉子さんはたちまち唇をとがらせて、頬を膨らませる。子供みたいな表情は微笑ましかったけれど、誤解されたことに気づいてあわてて手を振った。
「ちっ、違いますよ! あの、そういう意味じゃなくて――」
「そうよねえ。そりゃあ特別よねえ。いいのいいの、わかってるわよ。大好きな彼にあげるチョコってのは一番悩むわよねえ~」
いじけたように語尾を伸ばして続けた葉子さんは、私が本当に困ってることを知っていてやっているのだ。だから、余計にどうしたらいいかわからなくて、頬まで赤くなってしまう。
「そういう特別もないとはいいませんけど……静さんの場合、そうじゃなくて――」
「わかってる。甘い和菓子は好きでも、洋菓子は苦手なのよね。夏、彼のお誕生日の時にあげたケーキのこと、ちゃーんと覚えてるわよっ」
ぷっと吹き出して、私の肩を軽く叩きながら先回りして言ってくれる。葉子さんの優しさにほっとして、私は頷いた。