抹茶な風に誘われて。~番外編集~
「突然ごめん、驚かせたかな」

「え……いえ」

 先頭に立って歩いていた彼――八代くんが口を開いたのは、人気のない非常階段に出てからだった。

「悪い、寒いのにこんなとこで――でも、ちょっと誰かに聞かれたら恥ずかしいっつうか……」

「あ、大丈夫、です……」

 同い年なのに、敬語を使ってしまう。それは見ず知らずの男の子であるから、という理由もあるけれど、もう一つの予感のせい。こんな風に知らない子に呼び出されるのは、初めてじゃないから――。

「あのさ――単刀直入に言うわ」

 前置きされた瞬間、ドキリとする。頭を掻いた八代くんが、何か決意したように私をまっすぐ見つめる。

 といっても身長差があるから、どうしたって見下ろす形になるのは静さんと同じなのだけれど――。思い浮かべた面影になぜか後ろめたい気持ちが生まれるのも、もう何度目だろうか。

「俺、さ……ずっと九条さんのこと気になってて――つまり、その」

 真剣な瞳に揺らめく想いは、まっすぐ私の心に伝わってくる。自分もずっと心に持っていて、大切に育んできた想いと同じものだからすぐにわかる。それと同時に心の中で、どうやって答えようか考えはじめるのだ。

「好き、なんだ。えっと――俺と付き合ってくれないかな?」

 最後は覚悟したのか、はっきりとそう聞かれた。でも――私の答えはその言葉を聞く前から決まっているのだ。

「ごめん、なさい――あの、私……」

 俯いて、彼の気持ちに応えられない理由をそのまま口にしようとした。次の瞬間、「あっ、いいよ、わかってるから」と苦笑まじりの声が止める。驚いて見上げた私に、八代くんは悲しそうに笑った。
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