抹茶な風に誘われて。~番外編集~
「……かをるがそう言うんじゃ仕方ない。駄目元、とっとと入りやがれこの万年最下位価値ゼロホストが」
縁側にしゃがみこむ形になっていた亀元さんを、自分が付けたあだ名で呼んで、静さんは顎をしゃくるだけで指図した。
「あーってめ! 優月の言い方マネすんなって言ってんだろ!?」
「うるさい、鬱陶しい、煩わしい。入れてやるだけ有難いと思え、疫病神め」
「おーお、荒れてる荒れてる。そんなに寸止めが辛かったかねー? いいじゃん、どうせ毎日毎晩一緒にいられんだからー。いいよな、こんなに可愛いかをるちゃんとあれやこれやの素敵な三百六十五日……」
「――死にたいのか?」
「ハイッ、冗談デス! 申し訳ありませんっ、隊長!」
「誰が隊長だ、このアホが」
最後は扇子でびしっと頭を叩かれても、亀元さんは全くめげない。なんだかんだ文句を言い合いながらも、ホスト時代から親しい友人、兼、現在はお茶飲み仲間としても、二人は仲がいいのだ。
「せっかくですから、皆さんお呼びして賑やかに食べましょう。私、はりきって天ぷらたくさん揚げますから」
「おーっ、それいい! 賛成っ!」
早速同意を得て亀元さんに微笑んだ私は、またも見ていなかったのだ。静さんの額に立った、二度目の青筋を。
いつも通りの、そして一味違う夜がこの時に始まったことなんて、知る由もなかった。
*
十九歳になって、八ヶ月と数日。世間的にはまだまだ大学一年生の私がこの平屋で暮らし始めてから、初めて迎えた夏も、そろそろ終わろうとしている。
『一条』、とかかれた表札に並んだ、『静』と『かをる』の文字。ここが確かに二人で暮らす我が家なんだ、そう実感していた私は、静さんに呼ばれて引き戸を開け、中に入った。
賑やかな亀元さんに加え、オカマのハナコさん、ホステスの香織さん、それから私の親友である咲ちゃんと優月ちゃんも呼んでの食事が済んで、みんなを送り出した後だった。
楽しい時間に満足して、上機嫌で後片付けを始めた私は、じっと物言いたげな目線を送られていることにようやく気づいた。
縁側にしゃがみこむ形になっていた亀元さんを、自分が付けたあだ名で呼んで、静さんは顎をしゃくるだけで指図した。
「あーってめ! 優月の言い方マネすんなって言ってんだろ!?」
「うるさい、鬱陶しい、煩わしい。入れてやるだけ有難いと思え、疫病神め」
「おーお、荒れてる荒れてる。そんなに寸止めが辛かったかねー? いいじゃん、どうせ毎日毎晩一緒にいられんだからー。いいよな、こんなに可愛いかをるちゃんとあれやこれやの素敵な三百六十五日……」
「――死にたいのか?」
「ハイッ、冗談デス! 申し訳ありませんっ、隊長!」
「誰が隊長だ、このアホが」
最後は扇子でびしっと頭を叩かれても、亀元さんは全くめげない。なんだかんだ文句を言い合いながらも、ホスト時代から親しい友人、兼、現在はお茶飲み仲間としても、二人は仲がいいのだ。
「せっかくですから、皆さんお呼びして賑やかに食べましょう。私、はりきって天ぷらたくさん揚げますから」
「おーっ、それいい! 賛成っ!」
早速同意を得て亀元さんに微笑んだ私は、またも見ていなかったのだ。静さんの額に立った、二度目の青筋を。
いつも通りの、そして一味違う夜がこの時に始まったことなんて、知る由もなかった。
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十九歳になって、八ヶ月と数日。世間的にはまだまだ大学一年生の私がこの平屋で暮らし始めてから、初めて迎えた夏も、そろそろ終わろうとしている。
『一条』、とかかれた表札に並んだ、『静』と『かをる』の文字。ここが確かに二人で暮らす我が家なんだ、そう実感していた私は、静さんに呼ばれて引き戸を開け、中に入った。
賑やかな亀元さんに加え、オカマのハナコさん、ホステスの香織さん、それから私の親友である咲ちゃんと優月ちゃんも呼んでの食事が済んで、みんなを送り出した後だった。
楽しい時間に満足して、上機嫌で後片付けを始めた私は、じっと物言いたげな目線を送られていることにようやく気づいた。