抹茶な風に誘われて。~番外編集~
 ――どうして? 私、何か悪いことしたのかな。

 泣きそうになっていたら、静さんがふっと笑ったのが気配でわかった。ほんの少しだけ、腕の力が弱められる。泡のついた手をした私を、ゆっくり正面に向きなおさせて、抱きしめてくれる。

「そうだ。二人きりの時間より、みんなで楽しく過ごすほうがいいらしいからな。そんな奥さんには――お仕置きだ」

 まるで予想外の真相――静さんの真意をようやく理解して、一瞬後に真っ赤になってしまった。私の反応に気を良くしたのか、静さんは背中に回したのとは逆の腕を持ち上げ、人差し指を私の頬に当てた。つん、と突付いて、また意地の悪い笑みを浮かべる。

「ここと、ここと、ここ。あ、こっちにもしたかな」

「……何を……あっ」

 指で数箇所を指し示していた静さんは、私の疑問に行動で答えた。いきなり引き寄せられ、熱い唇が落とされる。耳たぶ、うなじ、首筋を辿って、鎖骨まで――それは確かに、先ほどの行為と同じで。

「静さ……やっ、あ、またそんな……っ」

 時折強く吸われるのが、赤い印を付けるためだということは、さすがに身を持って知っていたから。拒否しようとするのに、やっぱり弱々しい声なんて聞いてもらえるはずはなかった。いや、聞こえていて、わかっていてやっているのだ、この意地悪な旦那様は――。

「そんな……何だ? はっきり言わないとやめないぞ」

「あと、つけないで……んんっ」

 下さい、と続けようとするのを、思いきり深く口づけられて止められてしまった。

 これもわざと、言わせないようにしているに決まっているのに、キスの合間にくすくすと笑う。

「ん? ああ、そうか。もっとほしいのか。しょうがない奥さんだな――」

「ちが……っ」

 ついに腹を立てて、声を上げようとする。私の反応は、今度はお気に召さなかったらしい。静さんは眼を細めて、それからもっと濃厚なキスに移行したのだ。

 泡が付いているから浮かせていた両手で、思わず背中にしがみつかざるを得ないくらいの深く、強く、それでいてひどく甘いキスに。
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