抹茶な風に誘われて。~番外編集~
「静さんが、浮気したことです」
「――は?」
本当に、まるきり想定範囲を超えていたらしい。静さんは瞬きをしてから、耳を疑うようにもう一度、
「……何だって?」
「ですから、静さんが浮気したことです」
まるで理解できない、という顔をしている静さんを見て、吹きだしそうになるのを堪える。笑ってしまいたい気持ち半分、残り半分は、言葉通りにほんのかすかな不快感。
後者に背中を押されて、私は言った。
「だって……静さん、さっき言ったじゃないですか。妻のいない間に、情事と行こうかって」
それは冗談で、私を他の女の人と見立てての言葉遊びで。もちろん、そんなことは百も承知だ。でも、正直気分がいい内容じゃなかった。いくら冗談でも、言っていいことと悪いことがあるのだ。それに――そんな不吉な内容を、ふざけて口に出してほしくなかった。
極めて身勝手で幼稚な不満を、後悔にまた赤面しながらぼそぼそと呟く。
あれほど勢い込んで言ったはずが、動じもせず、なおかつ嬉しそうな顔をして静さんが聞いていることでくじけてしまったのだ。
「なるほど……よーくわかった。で? 俺はどんな仕置きをされるんだ?」
全く嫌がっていない口ぶりである。完全に舐められていることがわかって、私は憤慨した。その余裕に満ちた顔を少しでもゆがめさせてやりたい、なんて思ったゆえの、出来心。
「――抹茶プリン」
「何?」
「食べてもらいます、私のお手製抹茶プリン」
ここでやっと、静さんの口があんぐりと開いた。冷蔵庫の中に冷やしておいた、本当は明日葉子さんたちに差し入れしようと思っていたデザートだ。
和菓子は私と同じで大好きだけど、洋菓子は苦手な静さん。いつも完璧で余裕たっぷりの旦那様の、唯一の弱点を突いたのだ。
「……なんでここで、抹茶プリンが出てくるんだ?」
困惑気味の顔に、力を得た。にっこり笑って、冷蔵庫から取り出したヒンヤリ食べ頃和洋折衷スイーツを目の前に差し出す私。
「妻の意思を尊重するのも、夫の役目――なんですよね? 静さん」
確かにそう言った旦那様は、頬をひきつらせている。
「――は?」
本当に、まるきり想定範囲を超えていたらしい。静さんは瞬きをしてから、耳を疑うようにもう一度、
「……何だって?」
「ですから、静さんが浮気したことです」
まるで理解できない、という顔をしている静さんを見て、吹きだしそうになるのを堪える。笑ってしまいたい気持ち半分、残り半分は、言葉通りにほんのかすかな不快感。
後者に背中を押されて、私は言った。
「だって……静さん、さっき言ったじゃないですか。妻のいない間に、情事と行こうかって」
それは冗談で、私を他の女の人と見立てての言葉遊びで。もちろん、そんなことは百も承知だ。でも、正直気分がいい内容じゃなかった。いくら冗談でも、言っていいことと悪いことがあるのだ。それに――そんな不吉な内容を、ふざけて口に出してほしくなかった。
極めて身勝手で幼稚な不満を、後悔にまた赤面しながらぼそぼそと呟く。
あれほど勢い込んで言ったはずが、動じもせず、なおかつ嬉しそうな顔をして静さんが聞いていることでくじけてしまったのだ。
「なるほど……よーくわかった。で? 俺はどんな仕置きをされるんだ?」
全く嫌がっていない口ぶりである。完全に舐められていることがわかって、私は憤慨した。その余裕に満ちた顔を少しでもゆがめさせてやりたい、なんて思ったゆえの、出来心。
「――抹茶プリン」
「何?」
「食べてもらいます、私のお手製抹茶プリン」
ここでやっと、静さんの口があんぐりと開いた。冷蔵庫の中に冷やしておいた、本当は明日葉子さんたちに差し入れしようと思っていたデザートだ。
和菓子は私と同じで大好きだけど、洋菓子は苦手な静さん。いつも完璧で余裕たっぷりの旦那様の、唯一の弱点を突いたのだ。
「……なんでここで、抹茶プリンが出てくるんだ?」
困惑気味の顔に、力を得た。にっこり笑って、冷蔵庫から取り出したヒンヤリ食べ頃和洋折衷スイーツを目の前に差し出す私。
「妻の意思を尊重するのも、夫の役目――なんですよね? 静さん」
確かにそう言った旦那様は、頬をひきつらせている。