抹茶な風に誘われて。~番外編集~
「私が、心を込めて作った、甘さ控えめ抹茶プリン。食べて――くれますよね?」
「一口……」
「ダメです」
「ふ、二口……」
「いいえ、全部です」
「……」
「残さず、一個まるごと、ペロッと食べてもらいますからね、静さん?」
目の前で端正な顔がゆがんでいくのを、私は笑顔で見上げる。初めて仕掛ける私の『お仕置き』に恐れおののいていた静さんは、ふと何かを思いついたように口を開いた。
「じゃあ、交換条件だ」
「え?」
「俺のお仕置きはまだ終わってないんだぞ? それに、さっきの答えも聞いていない。お前の条件だけ飲んで、俺のは飲まないってのは不公平だろう。だから、フェアに行こうじゃないか」
決して広くはない平屋の台所。なんていうあまりふさわしくない場所で、魅惑的な笑みを向けられる。静さんの静さんらしい、艶やかな微笑。もちろん、私が逆らえるわけのない、大好きな表情だったから。
「……何なら口移しで――」
「……静さんっ!!」
火を噴きそうな頬を持て余し、私は叫ぶ。笑った静さんが、抹茶プリンの器を取り上げる。食器棚から出したスプーンを渡して、私に囁いた。
「ほら、あーん、って言いながらだぞ?」
「もう……静さんの意地悪っ!」
結局、言うことを聞いてしまう自分が悔しくてたまらない。どちらのお仕置きだかわからない、気恥ずかしい時間の後には、きっと更に恥ずかしい報復が待っている。そして、抹茶プリンよりも甘くて優しい、二人だけの夜も。
不毛で幸せな、新婚夫婦の時間からは、夏の夜風さえも逃げていくのだった。
End.
「一口……」
「ダメです」
「ふ、二口……」
「いいえ、全部です」
「……」
「残さず、一個まるごと、ペロッと食べてもらいますからね、静さん?」
目の前で端正な顔がゆがんでいくのを、私は笑顔で見上げる。初めて仕掛ける私の『お仕置き』に恐れおののいていた静さんは、ふと何かを思いついたように口を開いた。
「じゃあ、交換条件だ」
「え?」
「俺のお仕置きはまだ終わってないんだぞ? それに、さっきの答えも聞いていない。お前の条件だけ飲んで、俺のは飲まないってのは不公平だろう。だから、フェアに行こうじゃないか」
決して広くはない平屋の台所。なんていうあまりふさわしくない場所で、魅惑的な笑みを向けられる。静さんの静さんらしい、艶やかな微笑。もちろん、私が逆らえるわけのない、大好きな表情だったから。
「……何なら口移しで――」
「……静さんっ!!」
火を噴きそうな頬を持て余し、私は叫ぶ。笑った静さんが、抹茶プリンの器を取り上げる。食器棚から出したスプーンを渡して、私に囁いた。
「ほら、あーん、って言いながらだぞ?」
「もう……静さんの意地悪っ!」
結局、言うことを聞いてしまう自分が悔しくてたまらない。どちらのお仕置きだかわからない、気恥ずかしい時間の後には、きっと更に恥ずかしい報復が待っている。そして、抹茶プリンよりも甘くて優しい、二人だけの夜も。
不毛で幸せな、新婚夫婦の時間からは、夏の夜風さえも逃げていくのだった。
End.