ハレゾラ
もう一人の来客
せっかく彼に会わなくてもいいようにと裏方に徹していたのに、裏は裏はで、坂
牧の対応に苦労していた。
あの告白の日以来、坂牧の私に対するアプローチは日毎増していき、同じ部署の
人間はもとより、希美がいる2階フロアーまで有りもしないような噂が流れてし
まっていた。
「咲いる?」
控え室に緊張した声が響き渡る。
その声の持ち主にすぐ気付き、顔を見ないままヒラヒラと手を上げた。
「はいはい。ここにいま~す」
半ばやる気なくそう答えると、希美はすたすたと歩いて私が座っている眼の前に
立ちはだかった。そして机にバンッと勢い良く両手をついたかと思うと、私の胸
ぐらを掴んだ。
「さぁ咲。どういうことなのか、ちゃんと話してもらおうか」
「な……何をっ? ちょっと落ち着いてよ」
「あんたがそんな奴だったとは思わなかったよ」
あぁ……。とうとう希美の耳にまで、要らない情報が入ってしまったみたいだ。
私ががっくり項垂れると、希美は掴んでいた手を離し、呆れたように息をつく。
そして、さっきまでとは打って変わって悲しそうな表情をした。