ハレゾラ
「今日はどこもぶつけてないのに、なんで泣いてるの?」
え? 私、泣いてる? 今日はどこもぶつけてない?
あぁ、旅館でのことか……。
そんなことを考えながら顔を触って確認してみると、確かに濡れていた。
この涙の理由は分からなかったけれど、今自分が幸せな気持ちでいることはだ
けはハッキリと分かった。
なんとなく彼に擦り寄ってみる。すると彼も私のその動作に気づき、そっと抱き
しめてくれた。
「おいっ! そこの二人。俺がいること忘れてないか?」
おぉぉぉ~、そうだった。慌てて彼から離れる。
彼は(なんで離れるんだよ)というような顔を私に見せてから、坂牧の方を向い
た。
「ああ、忘れてた。悪いな」
「ったく、ほんと世話が焼ける弟と部下だ」
「何がだよ」
彼が坂牧に突っかかる。そんな二人を見て、何か引っかかるものを感じた。
兄貴……弟……。
そうかっ、分かったっ!!
「ちょっと聞いてもいい?」
二人に問いかける。
「なんで兄貴と弟なの? 苗字、違うよね?」
そうだった。引っかかるものは、兄弟なのに苗字が違うからだ。
坂牧が「あぁ…」と小さく頷いてから、説明を始めた。