ハレゾラ
坂牧が、「夕飯作ってやる。食ってけ」と言ってくれたので、その言葉に素直に
甘えることにした。
キッチンで鼻歌交じりに料理を作っている坂牧を気にしながらも、彼にあの日の
ことを聞いてみる。
「ねぇ、翔平くん。この前の土曜日のことなんだけど……」
彼は「あぁ……」と小さな声でそう言うと、真剣な顔をして私の顔を見つめた。
「咲さん。あの日僕は、咲さんに渡すための指輪を買いに行ってたんだ」
えっ? 指輪? 確かに指輪の話が出ていたのを思い出す。それが私のためだっ
て言うの?
「じゃあ何で女の人と一緒だったの?」
「う、うん。あの人はね……俺の姉貴」
言いにくそうにそう言うと、頭を掻いた。
え? 嘘でしょ。それって信用していいのかなぁ……。
「でも翔平くん、笑里(えみり)って名前で呼んでたじゃない。普通お姉さん
のことを名前で呼ばないでしょ?」
「ああ、普通はね。でもうちの姉貴、普通じゃないから」
そう言って、困ったような顔をした。