ハレゾラ

やっぱり……。
彼は「分かってんじゃん」と笑いながら私のおでこをチョンっと小突き、顔を耳
に近づけた。そして耳に唇を優しく押し付けながら、色気を含んだ声で囁く。


「ねぇ咲。言ってみ」


ずるい……。咲って、そんな色っぽい声で呼び捨てにされたら、やっぱり無意識
に口が動いてしまう。頭が痺れてしまったみたいだ。


「私、可愛くないし、若くないし、若くも見えないし。でも……」


「でも?」


「それでもあの時、追いかけてきて欲しかった。そして私を捕まえて、これでも
 かってくらい抱きしめて欲しかったっ!!」


言った……。言ってやった。一気に言ったから息が苦しくなって、ハァハァと
大きく肩で息をついた。彼は満足気にニコニコ笑っている。


「よく言えました」


あくまでも上目線。
頭をされるがままにナデナデされている私って……。
これじゃあ、どっちが歳上なのか分からないじゃないっ。と思いながらも、その
彼の手の感触に身を委ねてしまっていた。
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