ハレゾラ
「咲さん、着いたよ」
考え事をしていている間に、翔平くんの家に着いてしまっていた。
彼は助手席のドアを開けて、いつものように手を差し伸べてくれている。
久しぶりにそうされて照れくさくなり、俯きながら手を差し出した。
おもいっきり引っ張られ、彼の体にドンッと顔からぶつかってしまった。
「は、鼻が痛い……」
「ごめん、咲さんっ。なんか気ばっかり急いっちゃって……」
あれ? 急にどうした? 怒ってたんじゃないの?
坂牧の家を出て、車に乗ったばかりの頃の、気丈俺様な態度は何だったの?
訳がわからなくなってきた。
半ば引きずられるように部屋の前まで連れていかれ、慣れた手つきで鍵を開けると、私に先に入れと促した。
玄関に入るとすぐ後に彼もついて入り、背後から不意に抱きしめられる。
ガチャっと鍵の閉まる音が私の耳まで届いた。
「咲さん、ごめん。車の中で意地悪なこと言って……」
そう言って強く抱きしめ直し、私の首元に顔を埋めた。
その行為がなんだかくすぐったくて、肌がぶるぶるっと波打つ。