ハレゾラ
手を繋いで歩いていると、それだけで胸が熱くなったのを今でもはっきりと覚え
ている。
なのに今は一人。
彼と別れたわけじゃないし、ただ今はお互い忙しくて会えないだけ……。
そんなことは分かっているのに、私の心は寂しくて、どうしようもなかった。
気付くと瞳からは、ポロポロと涙が零れていた。
「あはっ……私って、こんなに弱かったっけ……」
本当に情けない。30過ぎた女が、彼が……それも、年下の彼がいないと何にも
出来なくなってしまうなんて……。
気づかないうちに、それほど彼を愛してしまっていたんだ。
海岸の大きな岩がゴツゴツと密集しているところに、抵当な大きさの岩を見つけ
登り、腰を下ろして海を眺めていた。
(もう何時間こうしてるだろう……)
海風に晒し過ぎて冷えたのか、ブルブルと身体が震える。
携帯で時間を見ると、もう夕方の5時を回っていた。
「そっか……もうこんな時間。薄暗くなるはずだよね」
そう言って立ち上がり、岩から降りようと向きを変え、足を下ろそうとしたその
瞬間っ……。
「あっっ!!!」
少し濡れていた岩に足が滑り、頭から落ちてしま……わない?
あれ? あの高さから落ちれば、どこかは痛いはずなのに痛くない。と言うか、
何か暖かくて優しいものに包まれてる?
私は頭をしっかりと守っていた両手をゆっくりと離し、顔をゆっくりと上げた。
「はぁ……。間に合って良かったっ!! 一瞬、ダメかと思ったよ」
「しょ……翔平くん……なんで?」
彼がどうしてここにいるの? 現れ方が、まるで映画やアニメのヒーローみたい
じゃない。
頭の中が混乱して、ただ口を開けて彼の顔を見ることしか出来なかった。