ハレゾラ
強くなるということ
ゆっくりと私を下ろすと、服の汚れを簡単に払ってくれる。
落ちていたカバンを拾い、私に「はい」と差し出した。何も言わずにそれを受け
取る。
まだ訳が分からず、ボーっとしている私を見て苦笑する彼。でもその顔も一瞬。
すぐに、今まで一度も見たことのないような真剣な顔になると、私の右肩を乱暴
に掴んだ。
「咲さん、今どうして?って聞いたよね? それはこっちのセリフ」
肩を強く捕まれその痛さで我に返った私は、彼のその不機嫌そうな顔に怯んでし
まう。
「翔平くん、肩……痛いんだけど」
「それぐらい我慢してよ。僕のここは、もっと痛いんだから」
そう言って、自分の胸をぎゅっと掴んだ。
胸が痛い……。それは私のせいだよね、きっと……。
「怒ってる?」
私のその言葉を聞き呆れたように大きく溜息をつくと、肩から手を離した。
しばらく黙り続ける彼。
嫌われたんだろうか……。目の前に彼がいるというのに、どうしてこんなに胸が
苦しくなってきてしまうんだろう。
ただ見つめたまま何も話してくれない彼。悲しさからなのか、目に涙が溜まって
きてしまった。