ハレゾラ
「僕の家じゃなくてごめんね。でも、温泉の方が良かったかも」
「な、なにが!?」
「着いてからの、お楽しみ」
またお楽しみですか……。今度のお楽しみは、少しばかり心臓に悪い。
温泉という響きに動揺している私がいる。きっと彼は、私の同様に気付いて
いるんだ。
意地悪小悪魔。
私の顔を見てニコニコしている彼。もう諦めたほうがよさそうだ。
だって私はそんな彼も……好き? みたいだから。
旅館に着くと、すぐに女将さんらしき人物が入り口から駆け寄ってきた。
「野口様でございますか? 大変お疲れになったでしょう。さあさあ、どうぞ
中にお入りください」
とても感じの良さそうな人だ。その声に、気持ちがとても落ち着く。
「はい、ありがとうございます。咲さん、行こう」
「うん」
泊まる予定ではなかったから、特に大きな荷物もない。小走りに彼の後を着い
ていく。
フロントに着くと、彼が宿泊名簿に名前を書き出した。