ハレゾラ
「翔平くん。フロントでの、あ、あれは何? 野口咲って書いたでしょっ!」
ちょっときつく言い過ぎたかな? なんて思っていたんだけど、彼のほうが
一枚上手だった。
「そう遠くない未来に野口になるんだし、気にしない気にしない」
「…………」
ダメだ……。今の彼には何を言っても敵いっこない。うん、無駄な事はしない
方が良さそうだ。
ふかふかの座布団にちょこんと座って、女将さんの淹れてくれたお茶を飲む。
彼もそんな私を見て苦笑しながら、お茶を一口すすった。
「咲さん。僕はどんな咲さんも好きだけど、やっぱり笑顔の咲さんがいいな」
「じゃあ、私が笑顔になれるような事して下さい」
「え~、僕はしてるつもりなんだけど……」