Sugar × Spice Ⅱ〜恋人は年下幼馴染〜
「待ってよ、どうしたの急に」
涼が立ち止まって、私を一瞥したけれどすぐに視線をそらす。
「…なんだよ、幼なじみって」
「え?」
ボソっと言った涼の声が聞き取れなくて、私は聞き返した。
「何、どうしたの?」
「…なんでもねぇよ。
俺、用事思い出したから先に帰るわ」
「え、ちょっと!」
私は呆然と、スタスタと立ち去る涼の背中を見送った。
人混みに紛れて、すぐに見えなくなる。
…なんなのよ、もう。
急に機嫌悪くなって、小さい子どもじゃないんだから…。
…って、涼はまだ子どもか。
まだ大学生だもん。そうだよね。
でも、1人で帰ることないじゃない。
これって一応、デートなんでしょ?
それなのに女の子を1人にして置いてく?普通。
もう、ワケわかんないよ。
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-------------…
「そりゃ咲が悪いわ」
翌日。
受付の業務が一段落したところで、私はミカに昨日の出来事を掻い摘んで話した。
話し終わるとミカは、そう一言吐き捨てるように言った。
「“幼なじみ”とか、”弟みたい”とか、涼君が言われて1番傷付く言葉じゃない。
それくらい咲だってわかるでしょう?」
「…じゃあ何て言えば良かったのよ。
涼は“彼氏”ってワケじゃないのに」
私は小さな声で反論した。
「あのねぇ、まだそんなこと言ってるの?
涼君がどんな想いで咲に好きだって言ったか、
どんな想いで咲にキスしたのか分かる?
涼君の気持ちも少しは考えなさいよ」
ミカはそう呆れたように言った。
……だって、自惚れたくない。
涼が私のことを好きだとしても、
その気持ちやあのキスだって、涼の単なる気まぐれかもしれなくて…
そのうち涼の方から“咲はただの幼なじみ”って言われるんじゃないかって…
そう考えたら私は傷付くのが怖くて、
それなら、幼なじみのままでいた方が幸せだって思った。
一瞬でも“好き”だなんて思ったら、
私たちは二度と幼なじみには戻れなくなる気がして…
涼が今よりもっと遠くにいっちゃうって思ったら、いやだった。