Black Coffee.
「 楓くん、それ、あたしのです 」
「 わっ・・・お茶だ・・!
すいません 」
カラン、と氷の音がして、
珈琲を飲んでいた彼は驚いていた。
”お茶だ”ということは、
飲んだんだろうか。
ストローから口を離した彼が
”ほんと、すいません”と
謝ってきて、やっぱりあたしは
首を振りながら”いいですよ”と
言っていた。
緊張で喉が渇く。
映画は観てはいるけど
全く集中なんてできなくて、
隣が気になって仕方ない。
静まり返った館内にあたしの
鼓動が響いてそうで怖くて、
そんなことを思っていたら
バッ、と急に怖いシーンに入った。
恐怖で一瞬ビクリ、と震えた体に
気付いたらしい楓くんは
”大丈夫ですよ”とあたしに言って、
そっと、あたしの手を包み込んだ。