世界で一番大切なもの
2年前から、ヨーロッパ留学をしている桔平が、今日帰ってくる。



橘桔平、



若干18歳にして、世界を舞台に活躍する華道家だ。



将来は、日本の華道界を背負う男。



そして、あたし北島葵は、そんな世界とは全く関わりのない高校生。



こんな正反対の2人は、家が近かったという理由で幼なじみをやっている。



……やっていた。



あたしは小さい頃から桔平のことが好きだった。



だけど、今はそれすらも許されないこと。



「えへ、ソワソワしたって桔平と前みたいに出来るわけじゃないのにね?」



「葵」



「きっと、桔平怒ってるよ」



怒らせようとした。
怒らせたかった。



嫌われようとした。
嫌われたかった。




見送りにも行かなかったし、この2年、一通の手紙も送っていない。



諦めようとした、桔平のこと。



諦めたかった。
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