世界で一番大切なもの
気付いていた。



あたしが桔平の名前を口に出しては呼んでいないこと。



桔平はちゃんと気付いていたんだ。



だけど、呼べない。



名前を呼んだら、きっと想いも一緒に溢れてきちゃう。



だから、呼べない。



桔平、桔平、桔平。



胸の中では何度も呼んでるのに。



「俺のこと、嫌いになった…?」



消えそうな、声。



耳元で言われなかったら聞こえていないと思う。



「違ッ…」



違う。



あたしは、必死に首を横に振る。



ねえ、桔平。



好きだよ?



好き



好き



大好き。



だからあたしは、あなたのこの腕に止どまることは出来ないの。


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