世界で一番大切なもの
「わ、り……」
あたしが泣きやむと、桔平はあたしを腕の中から放した。
待っていてくれたんだと思う。
あたしが泣きやむのを。
桔平は、そういう優しい人間だから。
「こんな風に取り乱すつもりじゃなかったんだけど」
情けねー、と苦笑いを零す。
そんな桔平に、あたしは黙って首を振った。
「なあ…」
「あの、ね…」
桔平が何か言おうとしていたのを、遮る。
これ以上聞いちゃダメだ。
まだ、大丈夫。
だから、決心が揺るがないうちに……。
「あたし、ね…」
「うん」
桔平は、突然あたしが話し始めてびっくりしていたけど、優しい顔で聞き返す。
あたしは拳を作ってギュッと握り締める。
「あたし、京ちゃんが好きなの」
それは、誰にでも分かる嘘だった。
だけど、つかずにはいられない嘘だった。
「そっ、か…」
そう言った桔平の悲しそうな顔に、ズキッと胸が痛んだ。