世界で一番大切なもの
2年前、桔平がヨーロッパに行く前の日。



あたしは、桔平のお母さんに呼ばれていた。



近くの品のあるカフェで向かい合って座る。



今でも思い出す、あの緊張感。



まだ春だというのに、汗をかいてしまうほど熱く感じた。



『もう、桔平とは仲良くしないでほしいの』



桔平のお母さんから出た言葉は、そんな冷たいものだった。



『あなたと桔平じゃ、住む世界が違い過ぎるのよ』



冷たく言い放たれた。



見送りにも来ないでほしい、と。



普通の友達でいるのもダメだと。



『あの子は、将来日本の華道界をリードする人間よ』



力強い目で訴えられた。



『お願いだから、あの子の邪魔をしないで』



邪魔……?



あたしの存在が、桔平の邪魔になるの?



それだけは、嫌だった。



花を生けている桔平が大好きだったから。



側にいれないのは辛い。



だけど、それは失いたくなかったから



だから、決めた。



桔平の邪魔にはならないようにする、と。
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