蒼×紅
その声の主は、店内のトイレから現れた。

男は重三とは対照的に細身で長身。

左肩が少し出るくらい襟の広い、茶色の長袖Tシャツに緩めのデニムと黒いブーツを履き、首には赤い玉のついたネックレス。

肩上まである黒くて長い髪は、目を完全に覆い隠し、髪の隙間からのぞく瞳は微かに青白く、淡い光を放っていた。

「……誰かえ?そなたは。」

「誰って…お客さん、かな?」

朝日は彼の右手に、黒い鞘に収まった日本刀が握られとているのを目にした。

次の瞬間。

男が跳躍し、2人の側近の間を縫うように地に降りた。

すると2人の側近はゆっくりと地面に倒れこむ。

「ふぃー…。」

「な、なんだ!そなた!何をしたのかえ!」

あわてふためく重三。

男はそんな重三にゆっくりと目線を移し、その薄く青白い瞳で睨み付けた。

「…ひっ!あ…おのれっ!」

男の目を見た重三はあわてふためき、逃げるようにして店外に転がりでた。

それを追うようにゆっくりと男は歩を進める。

「あ…あの!あなた早く逃げた方が…」

それを見て我に返った朝日が男にそう声をかける。

彼女の足元では、驚いてひっくり返っている乾が口を大きく開けていた。

「んー…そうですね。そうしましょうか。」

男は天井を見上げ、考える素振りを見せてそう言うと、いきなり朝日の手を取った。

「えっ…あ!」

「あなたも一緒に。」

そう言って男は朝日の手を引き、店外に飛び出していった。

取り残された乾はまだ口を大きく開けたまま、呆然と座り込んでいた。
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