社長の溺愛・番外編
それから休日朝らしく時が経つのは早く…
昼過ぎには泊まっていた幸弘がのそのそと、とても普段イケメンなんて呼ばれているとは思えない姿で現れた
「なんか甘い匂いが…」
そう言ってソファーに溺れるように沈んだ幸弘はうつ伏せになり顔だけをこちらに向ける
「何か作ったのー?」
間延びした怠そうな声で甘い匂いの理由を問う幸弘に楽しそうな声が上がる
「生ちょことクッキー焼いたの!」
エプロンをふわふわと揺らしながら翼が既に焼き上がったクッキーと冷やされた生ちょこを持ってくる
「もう出来たのか?」
テレビを見ていた俺もそこに行けばにこにこ笑顔の彼女が食べてと瞳を向けてくる
だから生チョコを一粒手に取りそのまま口に運んだ
少しの期待と大きな不安を宿したそれはゆらゆら揺れてじっと視線を逸らさない
俺は口いっぱいに広がる調度良い甘さに頬を緩め不安そうな顔の翼を抱き上げた
「おいしいよ、すごく」
「……ほんと?ほんとに?」
「ああ、作ってくれてありがとな」
「……やった…」
唇が弧を描くときゅっと、抱きついてくる
―――初めてのバレンタイン
「いーっぱいあるからね」
「そうだな、一緒に食べようか」
「バレンタイン……楽しいね」
「よかったな、俺も楽しいよ」
―――甘いチョコレートはたっぷりの愛と感謝が詰まってる。