社長の溺愛・番外編



「あ、もってかれた」


ぽつりと吐き出された俺の独り言は思ったよりも抑揚がない



あーあ……まじかよ


ずっと好きな彼女が今、手の届かない場所で連れていかれた


もしろん俺が何かをできたわけではないが、なんだか開いた口が塞がらない気分だ



馬鹿みたいな思考回路だと思う、しかし何故か冷静に考えていた


きっと、既にこの時


心のどこか奥、ずっと深いところで俺は結末を予想していたんだと思う



だから、スーツの男が遠くからでもわかるほど優しく接するのを、連れ去っていくのを、簡単に脳内で処理することができたんだろう



じゃなきゃ短気で餓鬼な俺は


初恋が終わりを告げたことに納得もできずに若気の至りと化していただろう



だけども、やっぱり喪失感は補われずにいたのか


最終下校を知らせるチャイムが鳴るまでずっとその場にいた



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