社長の溺愛・番外編
あの人をみた瞬間に何故だかそう悟った心
頭では嫌だ嫌だと繰り返していたが、どこか遠くでもう終わりなんだと理解した
未だに姿が見えるのか校舎を見つめる彼
切れ長な瞳を細めて愛しいものでも愛でるような視線を惜しげもなく向けて、小さく微笑む
“大人の男”をみた瞬間だった
しばらくするとその車は急ぎ足で真横を通りすぎた
動けずにいたのは自分だけで、静かに遅刻をしらせるチャイム音
もちろんたくさんいたはずの制服姿のやつらはもういない
「はっ…、勝てねぇよ」
自傷気味に出てきた笑い
それに少し遅れてきたのは温かいそれで、静かにアスファルトに色をつけた
ぽつぽつと、頬を伝うものもあれば睫毛に溜まるものも
いつか、いつか
彼女じゃない誰かに再び恋をする日が来たならば
あの人のような大人になれるんだろうか
上がってきた太陽がアスファルトについた跡を消して行く
顔をあげるころにはもういつもの俺
『この恋は、ここで終わる運命だった』と今すぐ言えるほど俺は大人になれないが
きっといつか言える日が来るんだと思う
だから、今は精一杯の言葉を空に吐き出す
「恋、してた」