雫-シズク-
どんなにあきらめてもだれかの手を心のどこかで欲しがっていたんだ。


僕は今それを苦しいくらい実感した。


葵さんの手の温度がじわじわと体に広がって、腕が、胸が、どんどんあたたまっていく。


そして広がったぬくもりが、最後に心の真ん中を包んだ。


ずっと見ないふりしていたものを、あの日から止まったままの僕を、全部ふわりと抱きしめる。


ちょっと手をにぎられただけなのに、こんなに嬉しくてこんなに心がしめつけられるなんて。


僕は我慢できなくなって、横になったまま泣き出してしまった。


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