雫-シズク-
少し困っておろおろしながら葵さんを見たけど、知らんぷりで寝たふりをしている。


「……はい、もう大丈夫です」


できるだけ具合の悪そうな声を出して答えると、桜井さんが机の上のおかゆを見てにこりと笑った。


「よかった。それじゃまだなにも食べてないみたいだし、少し早いけどご飯にしようか。葵くん起こして下に来てね」


そう言った桜井さんが笑顔のままドアを閉める。


「……だそうです」


「んじゃ、行くか」


葵さんはジャージ、僕はパジャマでだれもいない廊下に出た。


いつもと違う空気の中、葵さんとの小さな秘密がちょっぴりうれしい。


そして僕はさっさと先に行ってしまう葵さんのあとをかけ足で追いかけた。


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