雫-シズク-
葵さんがくれる小さな優しさが僕にはどんなに大きなことかなんて、きっと知らないだろうけど。


僕は受け取ったマンガを開いて読み始めた。


でも同じ絵や文字ばかり見てしまって全然先に進めない。


ページをめくれない手をじっと見て、ざわざわする気持ちでふうっと小さなため息をついた。


そんな僕の頭には昨日の佐藤さんの話や夢のことばかりがぐるぐる回っている。


「なあ」


急に話しかけられておどろいた僕はいそいで葵さんの方を見た。


「俺さ、母親から虐待されてたんだ」


「えっ?」


その言葉にもっとびっくりした僕は、持っていたマンガを落としそうになった。


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