雫-シズク-
僕は声を小さくするために布団をぎゅっと強くにぎりしめた。


「僕なんかと違って葵さんは親がいるからいいですよ。その方がお金だってあるし、もしここがなくなったって帰る場所があるんだから。そうじゃないんですか?」


僕の中の赤い炎がゆらゆら動き始める。


「帰る場所、か。たしかにお前はそんな場所もないしなぁ?俺らなんかより大変だよなー。ほんとかわいそうだよ。あー、かわいそう」


しらけたみたいに言う葵さんにかちんときた。


「ばかにしないで下さい!」


「はは、ばかになんかしてねぇよ。……ただ、俺らの帰る場所は生きる場所じゃねぇってことわかって言ってる?」


ため息をつきながら言う葵さんにやっぱりばかにされた気がした僕は、また口答えをした。


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