雫-シズク-
耳をふさぎたくなるおそろしい話が早口で続いて、心の中で一生懸命やめてとくり返した。


「腹を何回もけられた時はもらした小便が血だった。もちろん病院なんか行けねぇからどうなるのか怖かったよ。
楽になりたかったけど、もっと苦しまなきゃ死ねないと思うと足が勝手にすくんじまうんだ」


息を止めた僕の手が布団をつかんだままぶるぶる震えている。


「憎む?そんなひまあったら食う物探してたさ。学校にはそのためだけに行ってたからな。
いつもいつも殺意のある狂った目でにまれて笑われて、ガキだった俺はあきらめたんだ。ただ顔色うかがってひたすら苦しい時間が過ぎるのを待つだけだった」


このまま葵さんがおかしくなってしまうんじゃないかと思った僕は、ちぢんだ体に力を入れてがばっと起き上がった。


「葵さん!わかったから、わかったからもうやめて!」


僕の言葉で急に静かになった暗闇で、葵さんが消えそうな声を出した。


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