雫-シズク-
葵さんは首をコキコキと鳴らして俺が漫画に集中し始めたのをそっと確認すると、たんすの一番下の引き出しを静かに開けた。


そして何気ない雰囲気を作りながらすぐに閉める。


この学園に来てすぐからこの様子は何度も目にしていたけど、俺はずっと気付かないふりをしていた。


そのたんすの奥に隠されているのが、大量の薬だと随分前から知っていても。


だって葵さんはその時すごく安心した顔になるんだ。


多分、定期的に精神科からもらってくる薬を溜め込んでいるんだろう。


それがなんのためかはわからないけど、葵さんの様子からお守りのような物かと俺は思っている。


俺は葵さんと長い時間を一緒に過ごすうちに、葵さんの中の闇の部分は自分が思うよりも大きな物だと確信していた。


だから余計に触れられずにいる。


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