雫-シズク-
「それじゃ、掃除行こうぜ」


俺が後ろ姿を横目でちらちら見ていたことを知らない葵さんが言う。


ここに来てしばらくはそんな風に葵さんに声をかけられたこともなかったなと、ふと思い出した。


……さっき四年の付き合いだとか言うからだよ。


少し懐かしく、そして葵さんとの今の距離を嬉しく感じて、思わず笑ってしまった。


「お前、なにニヤついてんの?気持ちわりーな」


部屋を出ながら呆れ顔の葵さん。


「気持ちわりーなんて言わないの!俺今嬉しいんだから気分壊さないでよ!」


「はいはい、漫画がそんなに嬉しいなんて可愛い可愛い」


「違うよ!なにそのガキ扱い!」


そんな話をしているうちに、俺はたんすの奥の物のことなんてすっかり忘れ去ってしまった。


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