雫-シズク-
その大きな手と少年の口のすき間から、荒い息と小さな声が僅かに漏れ聞こえてくる。


「……おかあ……さん!おと……さ……!つれて……いって……」


大好きな父と母から力ずくで引き離された少年の瞳には、恐怖と絶望の涙がとめどなく流れていた。


それはあまりにも残酷で、あまりにも悲しい光景だった。


結局少年が落ち着いた頃には全てが終わり、生前とは比較にならない程小さな「物」になってしまった二人。


それを前に少年はただ呆然とうなだれ、小さな肩を落とし立ち尽くし続けていた。




……この日から僕はたった一人で生きなきゃいけなくなったんだ。


まだ小さな僕はそれがどんなことかもわからなくて、ただ震えることしか出来なかった。



--独りぼっちの、僕の世界が始まる--




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