雫-シズク-
口はわずかに動くけどなにを言いたいのかさっぱりわからない。


すると近付いてきた葵さんが俺に言った。


「こいつ、病院は行きたくねぇってよ」


「ええ!?こんなに怪我してるのに!?」


驚いて葵さんを見上げた俺はすぐに亮くんの表情を確かめた。


土と血がこびりついた傷だらけの顔でまた小さく頷いている。


「ど、どうして!?」


亮くんの代わりに葵さんが俺の疑問に早口で答えた。


「病院行ったら警察にも事情を話さなきゃならなくなる。警察沙汰になったら学園から追い出される。そんだけ」


……亮くんの帰る場所が、なくなるってこと?


でもこのままで大丈夫なの?


納得できなくて目を丸めている俺に葵さんが素っ気なく言う。


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