雫-シズク-
口の中は生臭い鉄の味でいっぱいになり、もうどこが痛いのかもわからない。


一度つかまれた手を振りほどこうともがいたけど、支えのなくなった体はそのまま膝からぐしゃりと崩れ落ちてしまった。


くそ!くそ!なんなんだよこれは!


狂った暴力に怒りながら、それ以上の恐怖で体を丸めることしかできない。


これまで人に殴られたことのない俺は、あっという間に地面の上で身動きのできない状態になった。


「ちょっとぉ、もう終わり?こっちはまだ足んないのにさぁ」


不気味な笑い声が響く中、太った男がいつの間にか酷く汚れた金属バットを手に持っていた。


うそ、だろ……?それで、どうする気……?


そいつの姿はちゃんと見えるのに、目にうつる映像が頭の中を素通りして誰なのかはわからない。


目に血が入って赤くなった視界から、そのバットが振り上げられるのをまるで他人事のように見つめた。


そしてスローモーションで向かってくるバットと一緒に、遠くから声が聞こえてきた。


< 158 / 347 >

この作品をシェア

pagetop