雫-シズク-
漂っている重たい空気をシカトして、葵さんがにいっと笑う。


「退院したら一緒に挨拶行こうぜ」


俺は黙ったままこくんと頷いた。


「しっかし、こっぴどくやられたなー。まぁ骨なんか牛乳飲んでりゃすぐくっつくさ」


きっと俺に気を使って言ってくれたその言葉に笑おうとしたけど、口のはしが引きつっただけだった。


少しの沈黙のあと、猫背気味に座る葵さんがまた話し始める。


「亮、学園出てくってよ。お前をやったアホどもがご丁寧に亮に連絡入れたんだと。こうなったら内緒もくそもねぇからな」


亮くんが……。


正直、そうなんだという他人事の気持ちしか湧いてこない。


「アホどももせいぜい保護観くらいじゃねぇかな。……俺がいたらこんな酷いことにはならなかったかもしれない。……ごめんな」


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