雫-シズク-
そのまま桜井さんが必死に亮くんを説得し始める。


もれてくる亮くんの怒り狂った叫び声がとても正気とは思えない。


……亮くんが、人を刺した?しかも怪我まで?


信じられない状況で俺がぼうっと突っ立っていると、騒ぎを聞き付けてきた他の指導員達が警察に電話を入れていた。


突然の慌ただしさに俺だけが取り残されていると、桜井さんががしゃんと電話を切って叫ぶ。


「切られたわ!圭介くん、亮くんの居場所見当が付く!?」


なにも考えられない俺は首を横に振ることしか出来ない。


そして桜井さんは警察と話している指導員の所に駆け寄っていった。


まるでドラマでも見ているみたいに現実味のない俺は、室内を飛び交う大声を聞き取れないほど遠くに感じていた。




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