雫-シズク-
そのまま椅子にぎしっと座った葵さんの顔色が少し青ざめている気がする。


「大丈夫?」


遠慮気味の俺に葵さんは無表情のまま小さく頷いた。


「そっか……」


それ以上余計なことは言わないつもりで、俺は真似して隠していた漫画に視線を落とした。


学習時間が残り半分を切った頃、ずっと押し黙っていた葵さんが口を開いた。


「……なぁ、さっきの電話、母親からだったんだけどさ」


「……うん」


初めて俺に電話の内容を話し始めたことに驚きながら微かに頷く。


「どっかの男と再婚すんだってよ。……物好きもいるもんだよな」


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