雫-シズク-
俺はそんな強くてぶっきらぼうであったかい葵さんをずっと見てきた。


もう一度力の抜けかけた手でぐいっと葵さんの腕を引っ張って、ぎしぎしと歯を食いしばりながら深く俯く。


……俺はまた心の準備もできないうちに、一人ぼっちになるの?


どうにもならない腹立たしさや歯がゆさが一気に押し寄せてくる。


「……そんな風に謝らないでよ。……葵さんも諦めないでよ」


やっとそれだけ言えた俺は、しばらく声を殺してぼろぼろと泣いた。


今こうして近くにいるに、俺の手は葵さんに繋がっているのに、心だけが離れていくみたいだ。


この世界で唯一信じられる人に置き去りにされかけた俺の心が、淋しさと切なさで悲鳴を上げていた。




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