雫-シズク-
「……なぁ、今何時?」


ベットの下段の布団の中から、葵さんの寝ぼけた低い声が聞こえてきた。


「……さぁね」


新聞配達のバイトから帰っていた俺は、知らん顔でゆっくりと朝の支度を整え始める。


「……もう飯?」


「知らない」


冷たく即答した俺の様子に気付いたのか、必ずあと5分寝かせてとごねる朝の弱い葵さんがだらだらと起きてきた。


おはようも言わない俺をいつもの渋い顔でちらりと見て、怠そうに椅子に腰かける。


あくびをしながら大きな伸びをすると、ぎぎぎぎいーっと派手に椅子が鳴った。


それを無視して、俺はもくもくと通学鞄に教科書を入れる。


< 190 / 347 >

この作品をシェア

pagetop