雫-シズク-
数人の指導員がばたばたと電話をかけたりなにかのファイルをめくったりしている室内に入ると、みんなの視線がいっせいに俺達に集まってその中の一人が受話器片手に口を開く。


「あの、桜井さん、佐伯くんの母親に全然連絡付かないんですけど……。とりあえず家と携帯の留守電に入れておきますか?」


俺を壁際の小さなソファーへ座らせた桜井さんの表情が曇っている。


「そうね……、向こうには坂井さんが行ってくれてるし、至急搬送先の病院へ向かうよう入れておきましょう。坂井さんから連絡は?」


「いえ、まだありません」


そう、と呟きながら桜井さんは棚から救急箱を取り出して俺に学生服を脱ぐよううながした。


右手で上からボタンを外して左腕を袖から出そうと曲げると、今頃になってずきんと鋭い痛みが走る。


俺は小さく顔をしかめるとなるべく負担がかからないようにそっと学生服を脱いだ。


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